名刀 彼の名は『こてつ』

ある日、僕は子猫を譲り受けた。猫の名は『こてつ』。爪と牙は血に飢えた日本刀のごとく鋭く、黒と茶の縞模様は悪魔を召喚する魔法陣のように規則正しい幾何学模様をなしている・・・!!!

雑記、日記、考察、評論、小説、猫、他。

こんばんは。ヤイリです。

夜がふけてきました。雨もしとしと冷たく降っています。
野良猫たちが風邪をひいていなければいいのですが。
きっと空には分厚い雨雲が広がっているのでしょう、星も月も、地上に住む僕には見えません。
ランタン型の街灯が等間隔で並列し、そこに道があることを示してくれます。
僕らはそうやって、先人たちが敷いたレールの上を進むのでしょう。

さて、今年も残り2ヶ月をきりました。
時は目に見えない早さで僕らを終焉へと運んでいきます。

2017年に掲げた目標をほぼ何一つ達成していない僕であります。
目標は具体的に、以下の通り。

1.長編小説を執筆する。
→ほぼ進展なし…。プロットもどきをいくつかつくったけど、本当はもっとがっつり取り組みたかった。文章を書くことで一定のストレスが解消されるので、これは引き続きやっていく。

2.本を10冊読む。
→小説としてはたぶん3~4冊くらいしか読めなかったと思われる。今読んでる夏目漱石も、挟んだしおりをうちのアホ猫が毎回引っこ抜くので、いつも最初から読み返さなければならなくなる。

3.一人旅をする。
→これが達成できなかったことは、非常に残念である。なぜなら、やる気次第で達成できるからだ。まだ今年は残り1ヶ月半あるので、ぜひ一泊二日でいいから試みたいと考えている。

4.○○を○○する。
→口に出すのもはばかれる内緒の目標のため、内容は伏せておく。

自分自身の生活や所作を振り返ると、だいたい自らの情けなさを痛感する結果となる。
やる気と行動力次第で達成可能だったにも関わらず、なぜ何も為さずに一日が終わるのだろうか。

世間では、自殺志願者が9人も殺害される事件がありましたね。
殺人はいけないことですよ!当たり前ですよね!たぶん!

ただ、自分の命は自分のために使って死にたいというのが僕の持論です。
なので、ぶっちゃけ言って自殺は否定しません。
自分の大事な人が自殺しそうだったら止めますがね。なぜなら、僕が生きる上で、その人に生きていてもらった方が好都合だからです。決してその人のためではありません。

僕の命も、基本的には僕自身のために使うつもりです。なので、今年もあとわずかですが一秒一秒の命のタイムリミットを、心臓の鼓動一回一回を、ちゃんと意識的に『使用』していきたいと思います。

まずは、そうだな、一人旅の計画だな!
考えます。

小学生の頃、『あのねノート』という奇妙な宿題があった。

「先生、あのね……」という書き出すことを条件とした日記である。当然、その日記は先生に読まれることを前提に書くものであり、毎日宿題として提出が義務づけられていた。

先生、あのね、ハムスターを投げて遊んだよ。
先生、あのね、食べられなかったにんじんをポケットに隠したよ。
先生、あのね、友達のドラクエの冒険の書を消したよ。

まあそんな感じで、今日どんな悪事を為したかを先生に懺悔(ざんげ)するという『あのねノート』。
さぞかし悪趣味な罪状綴りであっただろうと、当時のことを振り返る。
小学3年生だった僕の担任の先生は、20代前半の新任教師であり、あのねノートに綴ったいたずらの数々を丁寧にチェックしてくれていた。

それが、たまらなく嬉しかった。

僕はある日、
「先生、あのね、先生が男の人と歩いてるのを見たよ」
と、書いて提出した。

その日の放課後、僕は先生に生徒指導室へと呼び出された。
「ヤイリくん、先生のことを見たってどこで見たの。あのねノートに、そう書いていたよね」
「うん。書いたよ。先生、男のひとと一緒なのを見たよ。どこで見たかは、内緒だよ」
「どうして内緒なの」
「そっちの方が先生が困るからだよ。先生の困った顔が見たいんだよ」

先生は、絶句した。
先生は僕ら生徒が大声であばれたり授業中にうるさかったりしても、うまく叱ることができない人間だった。
僕に対し、怒りと怯えを滲ませた苦悶の表情を見せた後、拒絶するようにきびすを返した。

先生の声は、震えていた。
しかし、同時に僕も高揚感に心震わせていた。
「もう変なこと、書いちゃいけませんよ」
「いやだよ。先生があのアパートにあの人と住んでいて、あそこで買い物をして、どこで笑ってどこで泣いて」
僕は続けた。
「いつ帰ってきて、いつお風呂に入って、いつ眠って、いつゴミを出して、いつ憂鬱な顔をして学校に来るのか。僕はちゃんとあのねノートに書くんだよ」

放課後の斜陽が、紫色とオレンジ色を混ぜたような色で僕らを包む。
先生は眉間にしわを寄せて、僕から一歩、また一歩と遠ざかる。
「あのねノートは先生が毎日提出しなさいって言ったんだよ。だから僕は書くんだよ。書くために、先生を見続けるんだよ。僕は体が小さいから、クローゼットや、ベッドの下や、いろんなところに隠れられるんだよ」

先生のくちびるの色がだんだんと悪くなっていく。
瞳からは涙があふれる。指の先が恐怖に震える。小刻みに後ずさりをする。
背中を丸めて、これから殺人鬼に切り刻まれる少女のように小さく縮こまっている。
僕はしゃがむ。ランドセルからあのねノートを出す。
「先生、あのね。今日は先生がへんだよ。ぼくを怖がっているみたいだよ。でも、わかったことがあるよ。今までみた先生の顔の中で、泣いてる顔がいちばんかわいいよ」

どたどたと、先生はへっぴり腰を引きずって指導室を飛び出した。
逃げなくてもいいのに、と僕は口をとがらせる。
残された僕はノートをランドセルに放り込んだ。

さて、おうちへ帰ろう。
いつものあのアパートに。

盗んだバスで旅に出て、3日目のことだった。

僕は陸地に沿って弧を描くようにシーサイドを飛ばしていた。
波は穏やかだった。大海原の青は僕の冒険心を優しくなでて震わせた。

世界が“こんなに”なる前に、通販サイトで買ったサングラスをくいっと直す。秋の澄んだ空から、暖かみのある斜陽がバスと僕を包む。
僕は片手でハンドルを操作しながら、もう片方の手でラジオをつけた。
『隕石の落下まで、残り23日5時間30分……』
冷たい文字列と数値列を、録音された女性の声が読み上げる。
まったく、こっちは気持ちよく旅をしているのだから、ボブディランのひとつでもかけてほしいものである。

道路には、僕の運転するバス以外に車は走っていない。
こんなにも気持ちの良い秋晴れにも関わらず、釣り人ひとりすら見当たらない。
世界の破滅がすぐそこまで迫っているこんなときだからこそ、幸せを探して釣り糸を垂らすべきだと考えるのは、僕がフェミニストだからか、はたまた楽観的すぎるからか。

煙草に火をつける。さっき自販機をぶっ壊して手に入れたセブンスターである。
窓をあけ、冷たい空気を車内に入れる。僕は、自由を感じる。

”そのニュース”が世間を騒がせたのは、僕の18歳の誕生日、偶然にも10月10日の夜だった。
地球の13倍の体積をもつ隕石が、約31日後に落下してくる。なんともSF映画チックな話だが、どうやら事実らしかった。幸いにも、僕は厭世的思想にとりつかれた死にたがりであったため、ちょうどいい、首をくくる手間が省けたくらいにしか思っていなかった。
しかし、世界中の人間たちは狂い逃げ出した。どこへ逃げても、地球上からは脱出できないにも関わらず、だ。
なんとも滑稽である。

それから、テレビ放送がなくなった。今ではラジオが定期的に地球の寿命をカウントするのみとなった。
街から相当数の人間が消えた。どこぞの宗教団体が皆を連れて行ったという噂もあれば、東京の地下シェルターへ向かったとも聞こえてきた。
率先して犯罪集団を結成し、本能のまま女を襲う者も出てきた。滅びることが確定している世の中なのに、金銭を奪う者もいた。死を目の前にして、皆、生きたいように生きだした。

僕はというと、まずバスを盗んだ。路線バスではない、長距離も走れる観光バスである。運転技術に自信がなかったため、少々小ぶりなやつにした。

バスの運転手は、僕の夢だった。
セブンスターの紫煙は一瞬で窓の外に吸い出され、消えていく。サングラスの位置をもう一度直す。
最高に気分が良かった。残り23日、あてもない旅を決め込ませてもらう。

ぐぅっと、空腹を知らせるベルが上腹部から鳴る。
適当なスーパーマーケットでも探して食料を調達しようと、思考と目線をくるりと巡らせた僕は、
とらえたのだ。
視界のはしに、たしかにとらえた。
とらえて、反射的にブレーキを踏んだ。

バス停に、少女が一人。
黒いキャリーバッグを立てて持つ少女が一人、
来るはずのないバスの到着を待っていたのだった。


~つづく~

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