少女は自らの命が残り少ないことを知っていた。
少女は命の光を可視できた。そして少女はその光をすくいあげ、別の生き物に分け与えることができた。

真冬の夜だった。夕方に振った牡丹雪が空気を洗い、澄んだ冷気が空を流れていた。
空っ風は雲を東へ運び、満天の星空がプラネタリウムのように少女と街を包んでいた。

街の明かりは点々と広がる。少女は薄着で、震えながら歩いていた。
目的地などなかった。胸ポケットにはビスケットが2枚。最後の食料だった。

雪で白くなった街路は、等間隔で林立するランプ型の街灯で照らされている。
レンガの道の端っこで、少女の足が止まった。
段ボールには子猫が2匹、横たわっていた。一匹は真っ黒で、もう一匹は白黒のまだら模様だった。
少女は膝を抱いてしゃがんだ。「死んでいるの」と問いかけた。
猫から返事は返ってこなかった。

少女は、ふと自分自身の生い立ちを思い出していた。
母親からは薄着の服しか与えられず、誕生日であった今日この日においても、プレゼントはビスケット2枚だけだった。少女は自分の父親が誰か知らない。知らなくてもよいと考えるようにすらなっていた。

少女は、人差し指で優しく真っ黒猫の頭を撫でた。驚くほど冷たかった。同時に、自分がまだ暖かさをもっていることに気づいた。

少女は胸ポケットからビスケットを2枚取り出した。ビスケットは、不思議な光を放っていた。それは紛れもなく、少女の命の光そのものだった。
ビスケットを一口サイズに砕き、子猫たちの口にくいっと押し込んだ。
子猫は二度目の産声をあげた。真っ黒と白黒は少女を一瞥し、元気に街の明るい方へ消えていった。

少女はそれを見送り、2枚のビスケット分しか残っていなかった命の光の僅か残りを、真冬の夜空へ溶かして消えた。
後悔はなく、むしろ清々しい顔で少女は力なく横たわる。粉雪が、少女につもっていくのを、ランプ型の街灯はただスポットライトのように照らし続けたのだった。

命をもらった真っ黒と白黒は、ビスケットの甘味と知らない誰かの優しさを決して忘れることなく、どこまでも駆けていった。どこまでも。彼らの足を止める権利は誰にもない。