「あなたへの恋心は、前世から枯れることなく咲き続け、私の魂をこの雪へと宿したのです」
少女は冷気とともに愛の言葉を吐き出した。



――それはしんしんと雪の降る静かな夜だった。

僕は囲炉裏(いろり)に覆いかぶさるように暖を取っていた。
極寒の闇に音もなく落ちてくるぼたん雪は、あっという間に集落を包み込んで白くした。
外に出ることもできぬほどだった。僕は春の陽気と桜を桃色を待ち望みながら、かじかんだ手を火にかざしていた。

とんとん、と、薄い木の戸が叩かれた。こんな夜に誰だろうと、立ち上がる。
がらりと戸をひきずると、そこには薄着の少女が立っていた。
「夜分遅くに失礼します。やっとお会いできました。私は、あなたが生まれる前から、あなたを想う女です」
薄い布切れをまとっただけのなんとも寒々しい恰好であった。しかしその身なりとは対照的に、瞳には力強く高貴な眼光を宿していた。細く色の薄い髪は背中を覆うほど長く、光の粉をまぶしたかのようにつややかだった。
顔立ちは、どこか懐かしげに思えてならなかった。
「よくわからんが、こちらで暖まりなさい」
家の中に招くも、少女はそれを拒んだ。寒さに震えているのは僕だけだった。

玄関先で、僕だけ布団を三枚もかぶりながら話を聞いた。
少女に名前はなかった。
初対面にも関わらず、しきりに僕への恋心を説いた。
少女が語るに、前世で少女と僕は夫婦であったようだった。無論、現世を生きる僕にその記憶はない。僕への恋心の強さが、彼女の魂を再び僕のもとへと走らせたのだと言う。しかし一度は終わった恋と、終わった命。そんな寂寥に浸った彼女の想いは、この冬の雪と共鳴し、ぼたん雪を人型へと変化させて彼女が生まれたという。
まさに雪女である。にこりを微笑む少女の唇は、血の気のない灰色であった。

雪女は暖を必要としなかった。むしろ、火や温かい汁物は苦手であった。
僕が囲炉裏で吸い物をすすっていると、決まって距離をおいた。雨戸からのびた氷柱(つらら)を好んで舐めた。

寂しさを紛らわすには、ちょうどよい話し相手だった。
谷底の集落であるが故、水分を多くふくんだぼたん雪が三日に一ぺんは降った。降り積もった重たい雪は、夜に響くすべての音を吸収して、しんと静まり返った無音の世界を作り出す。
そこで僕と雪女は、ささやくほどの声で話をした。
片方は囲炉裏で背中を丸めて、もう片方は冷えた玄関で膝を抱きながら。
何日も、何日も。
不思議と、恐怖や違和感はなかった。むしろ、僕の知らない前世の僕の話を楽しげにする彼女を愛おしく思うほどだった。生まれる前の自分に興味などなかったが、女の嬉々とした話し声が男一人暮らす狭い家に響くだけで、こちらも自然と頬がにこりと緩むのであった。

――しかし僕は気づいていた。

窓辺のつららはしずくを垂らし、まるで砂時計の砂が上から下へ落ちるように何かの終焉を予感させていた。
春は、もうすぐそこまで来ていた。