すべては『じゃがりこ』から始まった。

じゃがりこのパッケージには、『これはかたいお菓子なので気を付けて食べてください』とわざわざ書かれている。
僕は人の親切心を踏みにじるのが大好きな人間なので、2本のじゃがりこを勢いよく奥歯で噛んだ。
それはもう、じゃがりこと僕の奥歯の接触でビッグバンが起こり第二の宇宙が誕生するかのように、はたまた僕の奥歯とじゃがりこが織り成す咀嚼のリズムが、ウィーンのオーストリア顔負けの音色を奏でるように、凄まじい勢いでそいつをかみ砕いた。

すると、砕かれたのは僕の奥歯だった。
音もなく、砕けた振動だけが脳に響く。その瞬間、うわーこりゃまた歯医者地獄が始まるなと、心の底で覚悟と決意を決めるのであった。

僕の得意技は、おいしいコーヒーを淹れることと、歯医者を途中でブッチすることだった。
とくに歯医者のブッチには自信があって、最高4件の歯医者から逃げ出した記録を持っている。小学生の頃から歯医者逃亡選手権で全国大会を目指す決意を固めていたが、あいにく「自分の部屋に何冊エロ本を隠せるか選手権」と日にちがかぶっていたので、あえなく出場を諦めた。今も悔やまれる思い出である。

さて、仕事を定時で切り上げて、僕は歯医者へ赴いた。
診察台に寝転がる。

この後、男なら誰でも期待することがあるだろう。それをあえて記述する僕の勇気を讃えていただきたい。
寝転がる僕の脳天に、ふわりとやわらかい感触が触れる。
マスクをした歯科助士のお姉さんが僕を逆さにのぞき込む。前髪が僕の顔に向かって垂れていて、しかし後ろ髪は清潔感のあるポニーテールに仕立てている。肌は触れると溶けてしまうのではないかと思えるほど雪の白で、目は母猫のように優しく、色気があった。
そんなお姉さんの、胸の丘が、僕の脳天に触れた。

僕はそっと、目を閉じて、お姉さんの感触を確かめる。
死んでもいいと、思える瞬間であった・・・・。


つづく。